大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)1269号 判決 1967年12月25日
原告 阪井金造
右訴訟代理人弁護士 中垣一二三
被告大山秀夫こと 徐英
<ほか二名>
右三名訴訟代理人弁護士 広重慶三郎
主文
被告徐は原告に対し別紙物件目録(一)、(二)記載の建物から退去し、その敷地(別紙図面斜線部分)を明渡し、かつ金二三万八、一四〇円およびこれに対する昭和三九年七月一日から完済まで年五分の割合による金員並びに昭和四〇年三月二六日から右明渡済まで一ヵ月金一万二、七九一円の割合による金員を支払え。
被告李は原告に対し同目録(二)記載の建物を収去してその敷地四六、〇一平方メートル(一三坪九合二勺)を明渡し、かつ昭和四〇年四月一四日以降右明渡済まで一ヵ月につき金四、〇三六円の割合による金員を支払え。
被告駒井は原告に対し同目録(一)記載の建物を収去してその敷地四八、九九平方メートル(一四坪八合二勺)を明渡し、かつ昭和四〇年四月一一日から右明渡済まで一ヵ月につき金四、二九七円の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
この判決は金員の支払を命ずる部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一申立
(原告)
(一) 主文第一ないし第四項同旨
(二) 仮執行の宣言
(被告ら)
(一) 原告の請求はいずれもこれを棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二主張
(請求原因)
一、原告はその所有にかかる大阪市西成区汐路通三丁目四番地宅地六七一、一〇平方メートル(二〇三坪一勺)のうち一四五、八一平方メートル(四四坪一合一勺)(別紙図面斜線部分以下本件土地という)を被告徐に賃料は毎月末日限り翌月分を持参払いの定で賃貸していたものであり、その賃料は昭和三二年一月分以降月額二、六四六円(一坪当り金六〇円の割合)の定であった。
二、然るに同被告は昭和三二年一月分から同三九年六月分までの右賃料合計金二三万八、一四〇円の支払をなさないので、原告は昭和四〇年三月一八日同被告へ到達の郵便により到達の日から五日以内に支払うよう催告し若し右期間内に支払わないときは本件賃貸借契約を解除する旨の停止条件附解除の意思表示をした。然るに同被告は右期間を徒過したので、本件賃貸借契約は同年同月二三日の経過により解除により終了した。
三、なお同被告は原告の承諾なく本件土地のうち、四八・九九平方メートル(一四坪八合二勺)を昭和三四年七月三一日被告駒井に、また四六・〇一平方メートル(一三坪九合二勺)を昭和三二年七月七日被告李にそれぞれ転貸している事実が判明したので、原告は予備的にこれらの背信行為を理由に昭和四〇年三月二五日被告徐へ到達の書面により本件土地の賃貸借契約を解除する旨意思表示をした。
四、そして被告駒井は別紙物件目録(一)記載の建物を、同李は同目録(二)記載の建物を各所有し、それぞれその敷地部分を占有し、同徐は右(一)(二)記載の各建物を占有してその敷地たる本件土地をも占有している。
五、そこで原告は被告徐に対し本件(一)(二)の建物からの退去および本件土地の明渡と前記延滞賃料およびこれに対する昭和三九年七月一日から支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金並に解除後の昭和四〇年三月二六日から右土地明渡済まで一ヵ月三・三平方メートル(一坪)当り金二九〇円で計算した金一万二、七九一円の賃料相当の損害金の支払いを、その余の被告らに対し本件土地の所有権に基いて各所有の建物の収去とその敷地の明渡及び本訴状送達の日の翌日から右明渡済まで被告李に対しては本件土地のうちその占有部分につき一ヵ月金四、〇三六円の賃料相当の損害金、被告駒井に対しては同じくその占有部分につき一ヵ月金四、二九七円の賃料相当の損害金の各支払いを被告徐と連帯で求める。
(被告らの答弁)
一、原告主張の一は被告徐の賃借地の地積を除きこれを認める。賃借地の地積は一三五・九平方メートル(四一坪一合一勺)である。
二、原告主張の二、三の事実中原告主張の賃料の催告並に本件賃貸借契約解除の意思表示のあったことは認めるが、その余の事実を否認する。
三、原告主張の四の事実中被告徐が本件(一)(二)の建物を占有し、かつこれによりその敷地たる本件土地を占有していることは認めるが、その余の事実を争う。
(抗弁)
一、被告徐は昭和三九年八月二〇日に原告の代理人天柳商会こと岡坂友英に対し昭和三二年一月分から同三九年六月分までの賃料として金二三万七、六〇〇円を支払った。したがって原告主張の賃料催告当時同被告には滞納賃料はなかったのである。
二、(1)、被告李は被告徐の糟糠の妻であり、被告駒井は被告徐の親友であり又経済的な後援者である。
(2) 被告徐は本件土地上に原告主張の(一)(二)の建物を建築し大山荘なる名称でアパートを経営して今日に至っている。而して(一)の建物は被告駒井から金三〇万円を借り受けたのでその担保の趣旨で、所有権移転請求権保全の仮登記を、後に所有権移転の本登記をしたものであり、(二)の建物は悪辣なる債権者の差押を免れるために妻李の所有名義に保存登記をしたに過ぎないものである。したがって(一)(二)の各建物をそれぞれ被告李、同駒井の所有名義にしたことはいずれもその敷地の転貸に当らないものというべきである。
(抗弁に対する答弁)
一、抗弁一はこれを否認する。
二、抗弁二は被告李が被告徐の妻であることは認めるが、その余を争う。
第三証拠関係≪省略≫
理由
請求原因第一項の事実は本件土地の地積の点を除き当事者間に争いない。而して本件土地の地積が原告主張のとおりであることは≪証拠省略≫によって明白である。右認定を動かすに足る証拠はない。
次に原告が被告徐に対し昭和四〇年三月一八日到達の書面をもって昭和三二年一月分から同三九年六月分までの延滞賃料二三万八、一四〇円を五日以内に支払うよう催告し、本件賃貸借契約を解除する旨の停止条件付解除の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。然し被告徐は昭和三九年八月二〇日に原告の代理人岡坂友英に同人の要求により右期間の賃料として金二三万七、六〇〇円を支払ったから右催告当時同被告には催告にかかる滞納はなかったから右解除の意思表示は無効であると抗弁するので、この点につき考察する。≪証拠省略≫によると、訴外岡坂友英が原告と被告徐との滞納地代の支払の紛議に仲介の労を取り昭和三九年八月二〇日に解決のために必要であるといって被告からその主張の金員を預ったこと、後日被告徐からの要請により右金員を原告代理人として受取った旨の領収証を作成したことは認められる。然し≪証拠省略≫によると、原告は訴外岡坂友英に対し地代取立の代理権を授与していなかったことが認められる。右認定に反する証人岡坂友英の証言および被告徐の供述は右証拠に照らして信用できない。してみれば被告徐が訴外岡坂友英に対し金二三万七、六〇〇円を交付したことによりその滞納地代弁済の効力がない。してみれば被告徐が本件(一)(二)の各建物につき被告李、同駒井の各所有名義にしたことが本件土地のうち各その敷地部分の転貸になるかの点につき判断するまでもなく本件賃貸借契約は昭和四〇年三月二三日の経過により解除により終了したものというべく、同被告が本件(一)(二)の各建物を占有していることはその自認するところであるから、右建物から退去してその敷地たる本件土地を明渡す義務があり、かつ前示滞納賃料金二三万八、一四〇円およびこれに対する弁済期後の昭和三九年七月一日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並に解除後の昭和四〇年三月二六日から右明渡済までの賃料相当額であることが鑑定人小野三郎の鑑定の結果によって認められる一ヵ月につき三、三平方メートル当り金二九〇円の割合で計算した金一万二、七九一円の割合による損害金を支払う義務がある。
次に≪証拠省略≫によると本件(二)の建物につき被告李名義に所有権保存登記のなされていることが認められる。被告徐および同李の各供述によると、右建物は被告徐の建築したものであるが、同被告には借財があって差押えられる虞があったので、両者協議の上被告李名義に保存登記したもので、その実質上の所有者は被告徐であることが認められる。然し詐害のためとはいえ協議の上所有名義を貸与したものは善意の第三者に対しては禁反言の法理によりその所有名義人以外の所有であると主張することは許されないものと解すべきである。而して原告の悪意なることについて主張立証のない本件においては被告李は敷地所有者たる原告に対し妨害排除のため右建物を収去してその敷地四六・〇一平方メートルを明渡す義務があり、かつ本件訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和四〇年四月一四日以降右建物収去土地明渡済まで右敷地部分の割合により算出された賃料相当額一ヵ月につき金四、〇三六円の割合による損害金を支払う義務がある。
次に≪証拠省略≫によると、本件(一)の建物につき昭和三四年七月三一日付で被告駒井名義に所有権移転登記がなされていることが認められる。被告徐および同駒井の各供述によると、被告徐が昭和三〇年二月一日頃被告駒井から金三〇万円を借り受け、その担保の趣旨で同被告に代物弁済予約に基づき所有権移転請求権保全の仮登記をし、ついでその本登記をしたもので、被告徐において右借用金を返済すれば右登記を抹消して貰らえることになっていることが認められる。然し債権担保の趣旨であっても、建物所有権を取得したものは、その敷地につき正当な占有権限のあることを立証しない限り、敷地所有者の妨害排除の請求に基き地上建物を収去してこれを明渡す義務あるものというべく、したがって原告の被告駒井に対し本件(一)の建物を収去してその敷地四八、九九平方メートルの明渡を求め、かつ本件訴状の同被告に送達せられた日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和四〇年四月一一日以降右建物収去土地明渡済まで一ヵ月につき右敷地部分の割合により算出された賃料相当額金四、二九七円の割合による損害金の支払を求めることは正当としてこれを認容すべきものである。
よって原告の被告らに対する請求をすべて認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項を適用し、又仮執行の宣言の申立については同法一九六条を適用し建物の収去、土地明渡を求める部分については相当でないからこれを却下し、主文のとおり判決する。
(裁判官 庄田秀麿)
<以下省略>